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政治的でない友情はない:『キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー』【ネタバレ】

 ご存じアベンジャーズのリーダー、キャプテン・アメリカの2作目にして『アベンジャーズ2』のプレエピソードです。S. H. I. E. L. D.の根幹に関わる巨大な陰謀を発見してしまったキャプテンとブラック・ウィドウ。しかし2人は裏切り者として組織に追われてしまいます。彼らの前に現れるのは最強の暗殺者、ウィンター・ソルジャー…。

 前回に続いて恐縮ですがこの映画の背景については町山さんの解説をぜひ聞いてください。この映画の凄さが分かりますし、私の感想もこれが元になっています。
町山智浩 キャプテンアメリカ ウィンターソルジャー ネタバレ無しで解説 たまむすび - YouTube

 アメリカの理想を体現し、祖国のためにドイツと戦ったキャップの今回の相手は、そのアメリカです。同朋ですら敵になるのは現代の殺伐とした状況を反映しているとも言えますが、この仲間だと思っていたのに争わねばならないという状況は、ウィンター・ソルジャーがキャップの死んだはずの親友バッキーだった、というシチュエーションで反復されます。

 前にキャップの個人的なエピソードが盛り込まれるのはどうか、という感想を見かけたのですが、国家の問題と個人の問題が交差するというのがこの映画の狙いではないかと思います。

 ここで「公共圏(public sphere)」と「私圏(親密圏とも、private or domestic sphere)」を持ち出してみます。公共圏はざっくり言うと、古くは皆が共通の話題について語り合う場(例えばコーヒーハウスとか)であり世論が形成される空間を指します。政治が関わる領域です。対する私圏は家族や友人の間柄といった公共の意識が及ばない空間を指します。定義は複数あり難しいのですが…。

 町山さんの解説でも触れられているエドワード・スノーデンの事件も、対テロリストのために国民のプライバシーが侵害される、という話です。映画ではS. H. I. E. L. D.がテロリストの危険性がある人物を事前に察知し、大量虐殺しようと計画していました。Public sphereがprivate sphereに侵入するわけですが、友人同士であるキャップとバッキーが実は国の存亡の危機に関わるという展開も、公共圏と私圏の境界線が暴力的に揺るがされていることを示すのではないでしょうか。

 最もプライベートな領域であると思われてきた個人のセクシャリティも、政治的に左右されるというのは、ジェンダー研究がとうに通過した認識です。しかし、まだまだ個人的なものと信じられてきた友情も、パブリックのもとに晒される危険性があるのです。これを目の当たりにしたキャップは「自由」のために戦うと繰り返します。それは「プライベートを保持する自由を保障する」と解釈できるかもしれません。

 アメリカにとって最も危険な存在と成り果てたS. H. I. E. L. D.ですが、その誕生の原因となったのはキャプテン・アメリカでした。考えてみたらキャップのアトリビュートも盾(シールド)ですから、両者が分かち難い関係にあるのは当然のことです。

 終盤でキャップは、ウィンター・ソルジャー=バッキーと闘う際に、友人であること、ドメスティックであることを保つためにその盾を捨て、その行為が象徴するかのごとくS. H. I. E. L. D.自体も壊滅します。国家のために友人を殺すよりプライベートな関係を保つことをキャップは選び、国民全体のプライベートの安全も取り戻されます。こうしてprivate sphereの保持=自由を取り戻すことにキャップは成功します。

 ですが、バッキーの記憶は戻りませんし、ヒドラとの争いに終止符は打たれません。エドワード・スノーデンの事件が全く解決していないのと同じように。ウィンター・ソルジャーはベトナムでの虐殺行為を告白した兵士たちを指し、新キャラのサムが(ファルコンであることが分かるシーンの格好よさといったら!)PTSDに悩む帰還兵のカウンセリングを担当している設定からも分かるように、歴史は繰り返すし人間の愚行に終わりはないのです。

 アクションシーンの評判が高かったのですが、細かいカット割りが効いたタイトな作りで期待を裏切らず満足しました。ただキャップはノスタルジックな理想の擬人化でもあると思うので、ここまで今風にしなくていいかなと…。アンソニー・マッキーは本当に素敵。ナターシャも相変わらずイケメンですが世話焼きおばさんになってたのは笑いました。

 そして何より、元ネタとなる映画『コンドル』を撮りながら(そういえばS. H. I. E. L. D.のマークもコンドルですね。まぁCIAを模してるからでしょうが…)ノリノリで悪役を演じ切ったロバート・レッドフォードが流石の貫録。サミュエル・L・ジャクソンを食ってました。