2016年映画ベスト10など

 あんまり数を観てないのですが、こういうのは大好きなので今年もベスト10を考えました。いやまあどれだけ観たかなんてどうでもいいですけどね。「今年は100本しか観てなかった~~」とか言うのもどうなんかなって思いますし。これ以上書くとトラブルを起こしそうなので黙って次に行きます。

 

①『或る終焉』

荘厳だが親密で、温かいがどこまで冷たい。お馴染のフィックスしたカメラは自由に体を動かせない終末期患者の身体そのものを表すよう。ティム・ロスエニグマティックで不穏な演技も最高でした。結末に関しては様々な要素を考慮するとここに帰結するしかないように思います。コーマック・マッカーシーの影響が強いかな、とも思いましたが。

②『ハイ・ライズ』

キューブリック×グリーナウェイとでも言うべきこってりした映像、胃にもたれますが大変美味しくいただきました。積み重なった怒りと狂気が暴動に発展していく過程はけっこう説得力があり、カメラアングルや音楽が入るタイミングも個人的なツボ。10年代に生きる日本人ですが70年代イギリスを表すのにABBAを使うのはわりと正しい歴史観(?)という気もします。

③『コップ・カー』

導入の巧みさとか編集のリズムのよさとか子役の演技の引き出し方のうまさとか、がしっかりした基礎力をほどよい「テレ東午後のロードショー」感で包み込んでいるすべてが愛おしい。出来のいいパルプ小説を読んでいる時の幸福感がありました。あとやっぱりケヴィン・ベーコン。しかしこの監督にスパイダーマン撮らせようというマーヴェルの慧眼っぷりもすごいと思います。少年を撮るのが上手いことはこの一作でよく分かりますが。

④『マダム・フローレンス!』

豪奢な世界に閉じ込められた狂人の暴走を、はみ出し者同士が手に手を取って居場所を見つける優しい物語と共存させるスティーヴン・フリアーズの手腕に拍手。温かいバロック映画。労働者にも高級な音楽を、というアメリカのフィクションでは珍しい階級を前景化させるところもフリアーズ。音痴が上手いメリル・ストリープ、芸達者ぶりを役柄に昇華させたヒュー・グラント、両者をしっかり受けとめたサイモン・ヘルバーグとアンサンブルも見事(ただそのぶんレベッカ・ファーガソンの使われ方が精彩を欠いていたのがちと残念)。

⑤『ハドソン川の奇跡

トラウマを抱えた男がそのトラウマの原因となった出来事を何度も反芻することで克服する過程を90分に収めた、正統派なメンタルヘルスドラマ…。どんよりとした天気に三途の川を想起させるハドソン川と、死に惹かれているようで、キャビンアテンダント3人が叫ぶ「ふんばって、頭を下げて!」の力強さとの対比が泣かせます。トム・ハンクスは「偉大なるアメリカ映画」を支えるすげー俳優なんだなと改めて演技力に感嘆しました。女房役アーロン・エッカートの滋味もよし。特にラストの一言。

⑥『人生は小説より奇なり』

ツイッターのフォロイーさんが『東京物語』を引き合いに出してましたが、なんとエレガントな翻案でしょう。家族それぞれの利己心と善意が積み重なり、すれ違っていく様を丁寧に描きながら決して退屈させない手腕もさることながら、すべての人を平等に温かい視線で見る姿勢が素晴らしい。ジョン・リスゴー、アルフレッド・モリーナも名演ですが、「性格のいい杉村春子」とでも言うべきマリサ・トメイもよかったですね。

⑦『ティエリー・トグルドーの憂鬱』

上記作品と重なりますが、登場人物それぞれの利己心と善意が積み重なり、すれ違っていく様を丁寧に描きながら決して退屈させない。そしてこちらの方がより容赦ない。「あなたのためを思っていいますが、この履歴書の書き方はダメです」とか、今年私もガチで言われたのでしばらく動悸が収まりませんでした。人の人生はそれだけで既にサスペンス。そしてたった一回の過ちでその人が積み上げてきたものも文脈も無視され断ち切られるしかないという現実。クソだけれども、生きていくしない諦めに満ちたヴァンサン・ランドーの表情が見事。我が愛しのティム・ロスからカンヌ男優賞を奪った(???)作品ですが、『或る終焉』と本作は通底するものがあるように感じます。

⑧『ブリッジ・オブ・スパイ

繰り返される三すくみ(のっけからの自画像を描くシーンに度肝を抜かれました。よくああいうのがさらりと撮れると思います)のショットがやがてはプロットの三すくみ状態につながるところとか、ポール・トーマス・アンダーソンみたいに「とにかくどうやって撮ったの?」という感じです。最初は→↑のようにすれ違っていたドノヴァンとアベルの視線が別れ際、あの長い橋でやっと→←としっかり互いを見つめ合うショットに泣きました。ちなみに今年のワーストを選ぶとしたら『BFG』です。

⑨『パディントン

丁寧な脚本に真面目な演技。派手さはないけど誠実さはいくらでもある、よいイギリス映画の典型例です。最初はそこまで高く評価はしてなかったんですけど、あの安定感にジワジワと「いいなあ」と心が支配されてきました。それがこの映画の良さだと思います。まるでパディントンのように、気づいたら分かち難い一員となっている。混迷した世の中に対するフワフワ柔らかな一撃。あとデーモン・アルバーンが音楽やってるってのもポイント高いですね…。

⑩『ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅』

いやまあ『キャロル』とか『ブルックリン』とか、これよりやはり完成度は高いだろうと言える作品を今年は観ました。でもねえ、小学生から共に育ったシリーズが、魅力的なキャラクターと一緒に新たに蘇ってきたらねえ。一流の演者たちも決してビッグバジェット映画にありがちな宝の持ち腐れでなく良さを発揮してますから、きちんと作られてます。愛着度でいったら今年ナンバーワン。残り4作への期待も込めてこの位置です。

 

honourable mentions:『ブルーに生まれついて』、『600マイルズ』、『高慢と偏見とゾンビ』、『シング・ストリート』、『ゴーストバスターズ』、『ブルックリン』、『10クローバーフィールドレーン』、『帰ってきたヒトラー』、『マネーモンスター』、『孤独のススメ』、『キャロル』、『ルーム』、『ロブスター』、『リリーのすべて

 

演技賞

レイチェル・ワイズ『グランドフィナーレ』、『ロブスター』

『グランド~』は脚本がどうもな、と感じていたのですが、ワイズがマイケル・ケインをなじる場面は圧巻。そのほとんど直後に観た『ロブスター』で演技の幅広さに改めて舌を巻いたのでした。そりゃダニエル・クレイグも羨ましがるわ(?)

ダニエル・ブリュール『シビル・ウォー』

「熱望、錆びつき、17……」のところでもう充分です。あの内面が荒廃しきった様がにじみ出る表情。

・マイケル・スタールバーグ『スティーヴ・ジョブズ

ファスベンダー氏との演技の相性があまり良くないので「クリスチャン・ベールの方がヤバかったろうな」とかひでえこと考えてたんですが、スタールバーグのさらりとした実在感にやられました。さらりと上手すぎ。SUKI。

・エズラ・ミラー『ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅』

人に愛されず、そして愛を存在意義を求めることはこんなにも痛切で、どす黒くて、恐ろしいことを見事に示した演技。彼とサマンサ・モートン(この人も容赦ない演技しますからね)が並んだ図はお子様も観る映画じゃなかったですね。いやー怖かった。

 

毎年の目標「アジア圏映画をもっと観る」が今年も達成されませんでした。来年も自分の生活のあれこれで許す限りいろんな映画を観たいですね。